言うまでもなくマレーシアは一つの国家ですが、国内は民族ごとにその社会は分かれています。私たちがマレーシアを訪れたときに、これらのどの社会と 接触する かはその後も影響します。民族ごとにアプローチが異なるというのも奇妙な話ですが、それが現在のマレーシアです。恐らくあなたが真っ先に会話を交わすの は、見た目も日本人と同じこともあり中国人である確率が高いでしょう。多くの場合、彼らはマレーシアで生まれ育ち、マレー語、中国語も普通に話しますが、 家庭の中では福建語、広東語、潮州語などを使っています。彼らの親の世代は日本軍に抵抗を続けた経験を少なからず持っていますが、戦後マレーシアが独立し た後、マレーシア政府は中国と繋がる共産党を厳しく弾圧し、中国系住民はブミプトラ政策の元でも比較的裕福な生活を送ってはいても、マレーシア政府に対し ては少なからず不満を持っています。彼らはマレーシアに永住していますが、祖国は中国であるという意識は今でも変わりません。元々、成功するために中国を 離れたという意識が強いため、商売は大変に熱心です。また教育熱心な精神的風土を持っているため、その子弟はマレーシアでも高い教育を受けていて、外国人 に対しても全く臆することなく話し掛けます。感性も日本人と近いため、きっかけさえ掴めば深い付き合いができるでしょう。しかし、そのために周りはあなた が中国人のグループだと見なしてしまい、他の民族との接触が減ってしまうことも起こります。マレーシアの列柱社会とはそういうことなのです。
確 かに中国人たちがこの国の経済を牛耳っていても、国内の政治は基本的にマレー人が仕切っていますから、この国を理解するためにはマレー人を知ることが鍵に なります。しかし当のマレー人は中国人と比べ積極的に外国人旅行者と関わろうとはしないため、彼らと自然な交遊関係を結ぶことにはどうしても時間がかかり ます。さらにイスラーム共同体の一員として異教徒に対して、コーランの規定にある以外の交流については彼ら自身も戸惑っているというのが本音でしょう。比 較的、ユダヤ教徒、キリスト教徒に関しては寛容だと言えます。正直、私もどちらかと言えば取っ付きにくい印象を持っていますが、概して彼らと付き合うと驚 くほど誠実な方が多いようです。そうは言ってもイスラム教自体、男女の区別を明確にコーランで規定していて、マレー人同士でも異性に気軽に話しかけること も多くないため、外国人の場合はそういった異性との出会いは難しいと考えて下さい。
ご存知の通りイスラムの女性は肌や髪の毛を露出するこ と を禁じられていて、また一部では外で働くことも疑問視されかねない状況の中で、マレーシア社会の中で働く女性たちはイギリス的な思考を持ち、ブミプトラ政 策の後押しも得て大変にプライドは高く、総じて色気はもとより愛想もないという感想になりかねません。男性に対して従順といったことはなく、家のことは女 性に任せるようにコーランに書かれているため、むしろ街中で見掛けても堂々としています。比較的、日本の女性ならマレー人男性も寄って来ますが、日本の男 性の場合、なかなかマレー人男性でさえシャイで寡黙なことが多くそのハードルは高く感じられるでしょう。しかしマレー人は根は大変誠実で世話好きな方が多 いので、あなたの努力に対し彼らは必ず報いてくれます。
重要なことは私たちが彼らの価値観を学ぶことは世界の14億のイスラム共同体と接することを意味していて、日本人にとってマレーシアはその絶好の機会が開 けていることです。「豚を一切口にしない」、「お酒を飲まない」といったコーランに基づく彼らの生活習慣はつき合う中で追々学べば良いと考えますが、彼ら にとってこうした生活は私たちの憲法と同様に犯すことのできない決まりであることを頭に入れておいて下さい。
最後にマレーシアの約1割を 占 めるインド人ですが、政治家が多い割には政治勢力としてまとまっている印象もありません。その一方でマレー人社会に同化する訳でもなく、やはり独自の存在 感を放っています。皆さんも初めのうちはマレー人とインド人の区別がつかない方もいるでしょうが、見慣れるとかなり歴然と異なることに気がつきます。この 一見しただけでもお互いに渾然と成ることもなくそれぞれの民族を貫いて生活しています。マレーシアのインド人のその祖先は主にイギリス人が労働者として強 制的にインドの各地、主に南部から連行して来た者たちです。彼らはタミル語を使いヒンドゥー教徒が多いという以外は説明しづらいのが実情です。つまり一般 的にも「インドとはどういう国か」と言う問いに対して、インドそのものが余りに広く統一された特徴を挙げることが困難であるのと同様です。例えばマレーシ アにいるインド人の出身地だけ見ても、インド、パキスタン、スリランカを含んでいますし、その言語に至ってはタミール語、マラヤラム語、パンジャブ語、ヒ ンディー語、ベンガル語、グジャラティー語、シンハラ語、グルカ語と続きます。またマレー人に貧困層が集中している一方で、インド人もまた貧富の差が大き いと言えます。例えば、彼らの主な職業は宝石業、両替商、また得意な英語を生かして弁護士、政治家などがいる一方でプランテーション農業などの肉体労働者 まで幅広い層にまたがっており、当然それぞれの職業で全くその性格も異なります。しかし、前述の中国人やマレー人と比べたら、多くのインド人はより西洋的 な価値観を持ち合わせていてマレーシアの中で英語を武器に西洋社会とを繋ぐ要となっています。経済的には中国人とマレー人の中間という印象ですが、一部に 大変高い教育を受けている者が多いのがインド人です。そのため一般に私たちが接するインド人はビジネスの機会が多くなり、またその交際も西洋のスタイルに 近いかも知れません。